男女の友情成立 is#2

短編

 夏の暑さが部屋を貫通してくる。どんな部屋を涼しくしても、カーテンを使っても、日が差し込む。外の暑さを理解できる。

「瀬戸さん瀬戸さん」

「一回で反応できるよ」

 石原さんの言葉に、言葉を返した。何の思考もなく、壁に当たったボールが跳ね返ってくるだけ。会話は、そういうものか。僕たちは、同級生であるはずなのに、敬称をつけて呼ぶ。僕は、日常的に、そうやって他人のことを呼ぶから違和感はない。ただ、石原さんはそんなことない。呼んでいる理由が、年上(僕が一浪しているため)だからではなく、瀬戸さんがさんをつけるからって理由に全てが詰まっている。例えば、僕がじゃがいもと呼んだら、さつまいもって呼ぶんだろうか。

「男女の友情って成立すると思いますか?」

「興味がないね」

 夏の暑さのせいにしたい。なんとなく、この話は長くなりそうな気がしたから。反射的にそう反応した。

「興味の話はしてないよー。するかしないかです」

「男女の友情が成り立たない一つの理由として、どちらかが恋愛感情を持ってしまう可能性が生まれるからって言われているね。そうなったら、もうそこには、友情ではなくなっているわけで、男女の友情が成り立つかどうかという話ではなくないか。その変化を成り立たないって断言する場合は、できない。ただ、そうじゃない場合は、できている。ただ変化することもある、って言えるんじゃない?」

「友情として、成り立ったものが、友情じゃないものに、変化してしまったらそれはもう、成り立ってないじゃないですか」

「それは、男女じゃなくてもそうじゃないか?喧嘩したら、友情じゃないものに変化するわけで…。そもそも、友情なのに、男女っていう枕詞が正しいのかい?」

 友情の話をしているのに、男女って性別の前提がつくことが理解できない。その時点で、成り立たせさせようとしていない。ただの、友情関係であれば、男女であることを認識しない。

「論題を具体的にしてくれてるので、合ってます。成り立つって言っている人は、まずその感情が発生する可能性が無い、または発生しても相手に伝えなければ友人ごっこができるから、成立すると考えるのかなぁ。感情が発生した時点で、片方の人間は厳密には友情では無いけど、友情のふりはできるわけでそこを深く考えてわけている人は意外と少ないんじゃないですかね。他人、または相手から見て友情に見えるならそれで良いという感じな気もします」

「僕はね、前提として、男女の友情は成り立つと思っているよ。ただ、男女の友情が、恋愛に発展するとも思ってる。要は、男女の友情が永続的かどうかという観点であり、その観点で、考えたら成り立たないものであり、 友情が成り立つか成り立たないかという観点では成り立つという話。この命題は、男性が女性に気に入られるのに、使われる話題なんじゃないかとも思う。そして、問題点は、友情のふりをする時点で、成り立ててはないという話でもある。だから、そもそも友情っていう言葉すらも用いずに、興味がないって状態にするのが正しいのではないか、と。」

  ぼーっとしていた頭が少しずつ冴えてくる。このまま、卒論が書けたら、スムーズに進みそうだなぁ。アイスコーヒーが飲みたい。喉を通せば、冴えた頭が、より有用になる。夏はアイスコーヒーが美味しく感じるから好きだ。冬は冬で、ホットコーヒーが美味しく感じるから好きなのだけれどね。

「絶対に、永続的かどうかという観点で、人間関係を見るべきじゃないですよ!人間関係が長く続く、終わってしまうきっかけの一つとして、性別が違うという事実がある気がします。友情のフリをする時点で、成り立っていないと考えるのは、友情以外の感情を持っている人で、気配すらも恋愛的な要素を相手が感じないなら、友情のままです。相手に感情がばれていなければ、その相手からしたら友情100%になります。友情だとか何かしらの感情が相手に沸いている時点で、興味がないという評価にするのは、あまりにも悲しいです…」

 そうか。感性の違いってこういうことなのか。自分の中の納得する考えを相手に披露しながら、相手の考えを受け止める。別に、相手の考え方を自分と同じようにしてやろうという気持ちはない。ただ、どんどん自分の考えが追及されるにともなって、整理され、じゃぁ、この点はどうなのかという知的好奇心が広がる。どんどん夏の暑さもわからなくなってきた。そんなことに、脳内のキャパシティを圧迫されている場合ではない。

「そもそも、友情だなぁと実感することはあるかい。なにも抱かないを正とすると、それは興味がないと結び付けられないか。この仮定をするのであれば、恋愛感情は負となる。悟られない覚悟を永続的にできるのであれば、その理論が成り立つと思うけれど、どこかで粗が生まれた時に“結局…”という言葉で片づけられてしまう」

「友情だとはっきり実感することはなくても、恋愛じゃなくても何かしらの感情が沸いていないと人間関係として破綻しませんか。瀬戸さんが言ってるように、何も抱かないと興味がないはほぼイコールだと思いますけど、そもそもそこに友情だとか恋愛だとかっている議論はない気がします。正が恋愛感情以外の興味関心、負が無関心、正でも負でもない立ち位置に恋愛があると思います。瀬戸さんが人に興味が無さすぎます。粗が生まれた時、結局という言葉で片づけることもできます。ただ、軌道修正できるとは考えませんか」

「本当に軌道修正できると思っている?無理だと思うな。そこの感情を持たれたという経験はもう変えられない。人間をそこまで信用できるのか、信頼できるのか、という命題は、もちろん、推論になってしまうし、論じるには経験からの憶測にまってしまう。だから、深い話はできないが、不可能だと感じてしまう」

「それは確かにそうですけど…」

「石原さんは、どう思っているの」

「私は、すると思っています!」

こんなに難しい話をしたあとに、こんなに無邪気に笑えるのか。表情筋が僕よりも発達しているのか、表情に対する指令がよほど優れているのか。

「少なくとも、僕たちは成立しているように思えるね」

「それ、私のことどう思っているんですか」

「興味がないね」

 石原さんは僕をにらむ。しかし、すぐ笑った。この笑顔がなにを意味しているかはわからなかったが、お互い楽しい時間だっただろう。

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