あらすじ
風光明媚な瀬戸内の島で育った暁海と母の連ライに振り回され転校してきた櫂。ともに心に孤独と欠落を抱えた二人が恋に落ちるのに時間はかからなかった。ときにすれ違い、ぶつかり、成長していく。生きることの自由さと不自由さを描く。
感想
閉塞感。読み始めた時に、感じた。都会に憧れるというより、島内の狭いコミュニティで、固定化されている状態。その中で、縛られている感覚がはっきりと不自由であることを理解できた。
所詮、大人は子どもの延長線でしかない。そう思えた。偉い生きもんでもないし、𠮟るくせに、自分たちだって、してはいけないことをしている。いつから、大人がそんな生き物であることを理解しただろう。特にエピソードがあるわけではない。自分が見てきた大人は幻影で、自分たちよりも多くを知っているというだけで、大きく見えた。いざ、自分が大人という立場で見られるようになっても、その頃と何も変わっていない。
喧嘩はしない。それは、一見大人にみられるかもしれない。そんなんじゃない。弱さだ。喧嘩をしたら、関係性が修復できる未来を構築できない。感情を通したスピーカーは、どんな音が鳴るのかわからない。その状態になるのも怖い。目の前に怯えているだけだ。みんなが思っているような、感情を制御できるとか一歩引いて物事を捉えられるとかそういうのではない。ただただ、自分を殺めることで、変わらない関係を続けているだけ。
そんな感情の中でも、君を愛したい。その想いが島の中から出られていない。思い出も感情もあのころからずっとそこにある。他人を知ることで、理解しようとすることで、君が好きだという気持ちの輪郭を強める。君が好きだという証明に、他人を知ろうとする。きれいな一途だといえなくても、美学に反していたとしても、1人を愛するという毒々しさが、体の中を巡りに巡って、気付いたら溢れていた。
私も、愛する人のために、人生を誤りたい。
好きになった人のことを好きでいる自分が好きだと胸を張って言えるように。
言の葉
学校指定の白いシャツの群れの中で、ふいに鼻先をかすめたアルコールの香りまで。
12頁11行目より
「大人なんて、そんなに偉い生きもんやないよ」
49頁1行目より
子供のころ、いたずらをすると大人に叱られた。けれど大人だってしてはいけないことをしている。
58頁7行目より
「自分の人生を生きることを、他の誰かに許されたいの?」
91頁15行目より
「靑埜くんと喧嘩はしますか」
「しません」
「どうしてですか」
別れにつながることが怖いから―とは情けなくて言えなかった。
190頁4行目より
わたしはあなたを癒すためだけに存在しているぬいぐるみじゃない。生きて、考えて、時間の経過と共に変化していき、傷ついたり喜んだりするひとりの人間であなたの恋人だ。
193頁9行目より
その間、わたしは櫂のことばかりを思い出していた。髪や肌に触れてくる手、温かさ、匂い。わたしは櫂以外知らなくて、ここがちがう、それがちがうと数えることで、改めて自分の中の櫂の輪郭を強めてしまった。
228頁8行目より
それでも、わたしは、明日死ぬかもしれない男に会いにいきたい。
幸せになれなくてもいいのだ。
ああ、ちがう。これがわたしの選んだ幸せなのだ。
わたしは愛する男のために人生を誤りたい。
395頁6行目より
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